UMTPシン・モデリング宣言シンポジウム

AI時代のリベラルアーツとしてのモデリング

青学つくまなラボ フェロー
石原淳也 (大学プロジェクト准教授)

自己紹介

石原淳也

  • 青学つくまなラボ フェロー/大学プロジェクト准教授
  • CoderDojo(子ども向けプログラミング道場)の立ち上げに関与
  • Scratch コミュニティに長く関わる(著書『Scratchではじめる機械学習』)
  • フリーランスのプログラマー

今日お話ししたいこと

  1. Lifelong Kindergarten とメイカームーブメント、2つの思想
  2. 「つくる」ことは、実は「モデリング」である
  3. つくまなラボでの実践事例(AIが実装を加速している
  4. AI時代のリベラルアーツとしてのモデリングへ

Scratch を生んだ思想

  • Scratch は MIT Media Lab の Lifelong Kindergarten グループが開発
  • 名前の由来 = 「幼稚園のような学び方を、生涯にわたって」
    • 幼稚園では、積み木・お絵かき・ごっこ遊びを通じて自然に「創造的思考」を学んでいた
    • Resnick らは、この学び方をデジタル時代にも取り戻したいと考えた
  • 邦訳: 『ライフロング・キンダーガーテン — 創造的思考力を育む4つの原則』

Creative Learning Spiral

想像する → つくる → 遊ぶ → 共有する → 振り返る → また想像する…とぐるぐる回る

想像する Imagine つくる Create 遊ぶ Play 共有する Share 振り返る Reflect
  • 4つの P … Projects(プロジェクト)・Passion(情熱)・Peers(仲間)・Play(遊び)

「つくる」は、モデリングである

  • 頭の中の「こうしたい」を、手を動かして外に出す
  • 出てきたものを見て、「あ、思っていたのと違う」 と気づく
  • 気づきをもとに、また作り直す

→ これは UML で図を描くときの試行錯誤と、構造的に同じ

モデリングとは、対象世界を抽象化し、理解可能な形に再構成する営み
— それを、体と素材を使ってやっているのが「つくる」ことではないか

つくまなラボを支えるもう一つの思想

  • Lifelong Kindergarten だけでなく、メイカームーブメントの思想もラボの土台
  • 『作ることで学ぶ — Makerを育てる新しい教育のメソッド』(Martinez & Stager)
    • Making, Tinkering, and Engineering を教室に取り戻す
  • つくまなラボ の「つくって学ぶ」は、この2つの系譜の合流点

つくまなラボの紹介

https://sites.google.com/view/tukumanalab/

tukumanalab

  • 「つくって学ぶ」がコンセプト。初等部から大学生・教職員まで利用できる
  • 3Dプリンター・レーザーカッター・UVプリンター・刺繍ミシンなど

事例1: 試行錯誤の現場

「3Dプリンターで竹とんぼをつくろう」(初等部ラボメン活動)

CADで設計 手で羽根を曲げて調整 完成、実際に飛ばす

TinkerCadで設計 → 3Dプリンターで出力 → 手で羽根を曲げて角度を調整(アナログの試行錯誤)→ 飛ばして確かめる

事例2: 立体になって初めてわかること

都道府県パズル

都道府県パズル — 国土地理院の標高データを加工した、地形の凹凸を反映した立体パズル。「北海道は大きい」「関東は平ら」が、手で触るとわかる

事例3: 既製品に、自分の理解を組み込む

  • Gakken「あたらしい鳩時計」— 市販の鳩時計キット。アプリ: https://tukumanalab.github.io/cuckoo-clock/
  • ラボでは、曲を鳴らすカム自作生成するツールを開発
    • ブラウザで作曲 → 3Dプリンターでカムを出力 → キットに組み込む
    • 実装はすべて Claude Code(AIエージェント)に書かせた
  • 楽譜の読み書き・演奏経験・DAWの使用経験はほぼなかった
    → AIに教わりながら、五線譜を方眼紙のように見立てたUIにたどり着いた

AIは、「つくる」の何を変えたか

  • 都道府県パズルも鳩時計のツールも、実装のかなりの部分をAIエージェントが担った
  • 変わらなかったもの — 何をつくりたいか(構想)と できたものが合っているか(検証)
  • AIが担うのは、想像 → つくる → 遊ぶ → 共有 → 振り返る の循環のうち「つくる」の摩擦を減らす部分
    試行錯誤のサイクルが速く回るようになった
  • もう一つ変わったこと: AIを先生にできる
    • 楽譜の読み書き・演奏経験がなくても、つくりながら後から知識を得られる
    • 知識が「つくる」の前提条件ではなく、つくる過程で獲得するものになった

ここまでの事例が示すこと

  • モデリング=図を描くこと、ではない
  • モデリングとは、「頭の中の理解」と「外に出した形」を往復させて、理解を精緻化していく営み全般
  • 子どもが粘土をこねるのも、3Dプリンターでパズルを作るのも、UML で図を描くのも、同じ構造をしている
  • AIが担えるのは「外に出す」部分の摩擦を減らすことまで。往復させて理解を精緻化するのは、依然として人間の仕事
  • 知識の順番も変わった。「知ってから、つくる」ではなく 「つくりながら、知る」 が成立するようになった

→ だとすれば、モデリング教育の入り口は、図の描き方や前提知識を教えることではなく、「つくって、見て、気づく」経験を積むことかもしれない

AI時代のリベラルアーツとしてのモデリング

  • リベラルアーツ = 「自由になるための技(わざ)」
  • モデリングは、対象を自分の頭で理解し直すための技。図の描き方ではなく、つくって、見て、気づく経験から育つ
  • AIが実装を肩代わりする時代ほど、構想する力・検証する目の価値が上がる
  • Lifelong Kindergarten とメイカームーブメント = その経験を、幼少期から生涯にわたって支える2つの教育観

「つくる」ことを軽視しない教育・組織文化こそ、AI時代にモデリングというリベラルアーツを育てる土壌になる

「AI時代のリベラルアーツとしてのモデリング」というパネルで、15分ほどポジショントークをさせていただきます、石原淳也です。よろしくお願いします。

簡単に自己紹介します。2024年から青学つくまなラボにフェローとして所属し、大学プロジェクト准教授も務めています。もともとはCoderDojoという、子どもたちに無償でプログラミングを教えるボランティア活動の日本での立ち上げに関わり、Scratchのコミュニティにも長く関わってきました。今日は、この現場で見てきたことをもとにお話しします。他の登壇者の皆さんが形式手法や概念思考、都市工学といった、どちらかというとフォーマルでアカデミックな側面からモデリングを語られる中で、私は子どもたちが手を動かしてものをつくる現場から「モデリング」を考えてみたいと思います。

今日お話ししたいことは4つです。まず、Scratchを生んだLifelong Kindergartenという思想と、もう一つメイカームーブメントという思想を簡単に紹介します。次に、その思想を手がかりに、「つくる」という行為そのものが実はモデリングなのではないか、という私の仮説を提示します。そのあと、つくまなラボでの具体的な実践事例をいくつか紹介します。実はこれから紹介する事例の多くは、Claude CodeのようなAIエージェントの支援を受けてつくられています。最後に、それがAI時代のリベラルアーツとしてのモデリングにどうつながるかをお話しします。

Scratchは、MITメディアラボのLifelong Kindergartenというグループが開発しました。このグループ名自体がとても示唆的です。「生涯続く幼稚園」という意味で、幼稚園で子どもたちが積み木やお絵かき、ごっこ遊びを通して自然に身につけていた創造的な学び方を、大人になっても、デジタル時代になっても、取り戻したいという思想が込められています。この思想は、Scratchの生みの親であるミッチェル・レズニックが書いた『ライフロング・キンダーガーテン』という本にまとめられています。

Lifelong Kindergartenが提唱するのが、この「創造的学びの循環」です。何かを想像し、実際につくってみて、それで遊んでみて、人に見せて共有し、振り返って、また新しいことを想像する。このサイクルがぐるぐると回っていく。そしてこれを支えるのが4つのP、プロジェクト、情熱、仲間、遊びです。ここで大事なのは、「つくる」というのは一度きりの完成物を作る作業ではなく、この循環の中の一つのステップにすぎない、つくっては試し、また作り直す、という繰り返しの思考プロセスだということです。

ここで私の仮説を提示します。「つくる」という行為は、実はモデリングそのものではないか、ということです。子どもが何かを作るとき、まず頭の中に「こういうものを作りたい」というイメージがあります。それを手を動かして、粘土なり紙なりプログラムなりで外に出してみる。すると必ず「あれ、思っていたのと違うな」という気づきが起きます。そしてその気づきをもとに、また作り直す。これは、UMLで図を描いて、それを見て「あ、この構造だとおかしいな」と気づいて描き直す、という営みと構造的に全く同じです。モデリングとは、対象世界を抽象化して、人間が理解できる形に再構成する営みだと思いますが、それを、記号や図ではなく、体と素材を使ってやっているのが「つくる」ことなのではないか、というのが今日の私の主張です。

つくまなラボを形づくっているのは、Lifelong Kindergartenだけではありません。もう一つ、メイカームーブメントと呼ばれる思想の系譜があります。『作ることで学ぶ — Makerを育てる新しい教育のメソッド』という本があり、副題にあるMaking、Tinkering、Engineering、つまりものをつくること、いじり回すこと、工学的に組み立てることを、もう一度教室に取り戻そうという考え方です。つくまなラボの「つくって学ぶ」というコンセプトは、Scratchを生んだLifelong Kindergartenの系譜と、3Dプリンターやレーザーカッターを使うメイカームーブメントの系譜、この2つが合流したところに成り立っていると考えています。

私が所属している青学つくまなラボを紹介します。「つくって学ぶ」をコンセプトにした施設で、青学の初等部の子どもたちから大学生、教職員まで、誰でも利用できます。3Dプリンター、レーザーカッター、UVプリンター、刺繍ミシンなどの機材が揃っていて、日々いろいろな「つくる」が起きています。ここからは、この場所で実際に見てきた事例を通して、先ほどの仮説を具体的にお話しします。

これは初等部の子どもたちの活動、「3Dプリンターで竹とんぼをつくろう」の様子です。3D設計ソフトTinkerCadを使って自分だけの竹とんぼの羽根を設計し、3Dプリンターで出力します。ここまではデジタルでの設計と製造ですが、面白いのはその先です。印刷されたプラスチックの羽根は平らなままなので、3Dペンの熱で柔らかくして、手でひねって角度をつけないと飛びません。子どもたちは、揚力を生み出す形の違いを、実際に手を動かしながら試行錯誤して学んでいきます。頭の中のイメージを外に出して、それを見て検証し、修正するという、モデリングのサイクルそのものです。しかも多くの参加者が、推奨された2枚羽根に留まらず、4枚羽根や8枚羽根など、より難しい設計に自主的に挑戦していました。

もう一つの事例が都道府県パズルです。これは国土地理院の標高データを加工して作った、地形の凹凸を反映した日本地図の立体パズルで、3Dプリンターで出力します。都道府県ごとに色分けされ、標高データをもとに山や谷の凹凸まで再現しています。地図で見ているだけでは分からなかった「北海道は思ったより大きい」「関東は本当に平らなんだ」ということが、実際に手に取って重さや凹凸を感じることで初めて実感を伴って理解できます。平面的な地図という「抽象」を、手で触れる「具体」に翻訳し直す。この往復運動こそが、モデリングの本質的な効用ではないかと思っています。そしてこのパズルの標高データ処理やSTL生成のロジックも、AIエージェントの支援を受けながら組み立てました。境界の判定や座標変換など、複雑な処理をAIと対話しながら実装しています。

もう一つ紹介したいのが鳩時計の事例です。これはGakkenの「大人の科学マガジン あたらしい鳩時計」という市販のキットです。この鳩時計はオルゴール機構を内蔵していて、カムと呼ばれる歯車状の部品の歯の高さで、鳴らす音階が決まります。ラボでは、このカムを自分で作曲したメロディーに合わせて自作できるツールを開発しました。ブラウザ上のピアノロールで好きなメロディーを入力すると、それを鳴らすためのカムの3Dデータが自動生成され、3Dプリンターで出力してキットに組み込むことができます。このツールの実装は、私が構想して指示を出し、Claude CodeというAIエージェントにすべて書かせました。実は私自身、楽譜の読み書きや演奏の経験、DAW、楽曲制作ソフトの使用経験もほとんどありませんでした。それでもAIとバイブコーディングでやりとりを重ねる中で、五線譜を方眼紙のように見立てた、今のUIにたどり着きました。既製品というのは、いわば他人が作った「モデル」です。それをただ組み立てるのではなく、その中に自分の作曲という理解・表現を組み込めるように再設計する。これもまた、既存のモデルを自分の手で拡張し、再構成するという意味で、モデリング的な営みだと思います。実際に自作したカムを組み込んだ鳩時計が、どんな音を鳴らすのか、動画で見てみましょう。

ここで少し立ち止まって、AIが「つくる」をどう変えたかを考えてみます。都道府県パズルの複雑なデータ処理も、鳩時計のカム生成ツールも、コードの実装のかなりの部分はAIエージェントに書いてもらいました。一方で、変わらなかったものもあります。何をつくりたいかという構想、そして出来上がったものが自分の思っていたものと合っているかどうかの検証、この2つは相変わらず人間が担っています。先ほどのCreative Learning Spiralに当てはめると、AIが担っているのは、想像してつくって遊んで共有して振り返る、という循環のうち「つくる」の部分の摩擦を減らす役割です。手や道具を使って形にする、というところの速度が上がることで、試行錯誤のサイクル全体が速く回るようになった、という感覚があります。もう一つ、AIが変えたことがあります。それは、AIを先生にできる、ということです。鳩時計のカム作成ツールを作ったとき、私自身、楽譜の読み書きや演奏の経験がほとんどありませんでした。従来であれば、まず楽典や音楽理論を勉強してからでないとこうしたツールは作れなかったはずです。ところが今は、AIに教わりながらつくり進めることで、必要な知識を後から獲得していくことができます。知識がつくることの前提条件ではなく、つくる過程の中で獲得するものに変わった、という感覚があります。

ここで一度、小さな結論をまとめます。モデリングというと、UMLの図を描くことだと思われがちですが、それは表現形式の一つに過ぎません。モデリングの本質は、頭の中にある理解と、外に出した形とを何度も往復させながら、理解そのものを精緻化していく営みだと思います。子どもが粘土をこねるのも、3Dプリンターでパズルを作るのも、エンジニアがUMLで図を描くのも、実は同じ構造をしている。先ほど見たように、AIが担えるのは「外に出す」実装の部分の摩擦を減らすことまでで、それを見て、頭の中の理解と往復させながら精緻化していくのは、依然として人間の仕事です。加えて、知識を得る順番も変わりました。従来は知識を身につけてからつくる、という順番が普通でしたが、AIを先生にすることで、つくりながら知る、という順番が成立するようになっています。だとすれば、モデリングを教える、モデリングの力を育てるための入り口は、いきなり図の描き方や前提知識を教えることではなく、「つくって、見て、気づく」という経験そのものを、若いうちからたくさん積んでもらうことなのではないか、と考えています。

最後に、今日のテーマである「AI時代のリベラルアーツとしてのモデリング」につなげます。リベラルアーツはもともと「自由になるための技」という意味を持つと言われています。私は、モデリングも同じように、対象を自分の頭で理解し直すための技だと捉えています。誰かが用意した図式やフレームワークを覚えることではなく、自分の手で世界を一度分解し、組み立て直す経験そのものが力になる。この力は、図の描き方を先に教えることよりも、つくって、見て、気づくという経験を積むことから育ちます。そして、AIが実装を肩代わりしてくれる時代だからこそ、何をつくりたいかを構想する力と、出来上がったものを自分の目で検証する力の価値は、むしろ上がっていくと思います。Lifelong Kindergartenとメイカームーブメント、この2つの思想は、まさにこの経験を、幼少期から大人になるまで、生涯にわたって支えようとする教育観です。「つくる」ことを、子どもの遊びや趣味として軽視せず、きちんと位置づける教育や組織の文化こそが、AI時代にモデリングというリベラルアーツを育てる土壌になるのではないか、と考えています。ご清聴ありがとうございました。