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クレチン症講座ー上級編

Lesson19 : 未熟児、低出生体重児の場合

19-1 未熟児の甲状腺機能

「未熟児」といっても、生まれたのが早かったり(在胎37週より早い)、生まれたときの体重が小さかったりと、いろいろな意味で使われていますが、マススクリーニングでは、生まれたときの体重が2,000g以下の場合、普通と違う扱いをします。つまり、生後4~7日目に通常通りの初回濾紙採血を行いますが、その後の適切な時期にも必ず2回目の濾紙採血をすることを専門学会(日本未熟児新生児学会、日本マス・スクリーニング学会)が勧めています。

2回め採血の時期=以下のいずれか早い時期
  • 体重が2,500gに達した時期
  • 生後1か月ころ
  • NICU(未熟児集中治療施設)を退院する時期

以前、北海道でうまれた未熟児の方での甲状腺機能異常症について、多数のお子さんのデータをまとめたことがあります。結論的に言うと、未熟児は生まれた後のいろいろな処置のために、甲状腺機能に変化を起こすことが多いことがわかりました。特に影響が大きいのは、未熟性による呼吸不全(呼吸窮迫症候群と言います)がある場合や、ヨードを沢山含んだ消毒剤(代表的なものとして、イソジンやヨードチンキなど)が使われた場合でした。いずれも一過性甲状腺機能低下症となりますが、「一過性」といても数日の甲状腺機能異常ではなく、数ヶ月にわたるチラーヂンSによる治療が必要なお子さんもいました。

つまり、未熟児の方の中には、先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)として直ちに治療を必要とする方もいますし、一時的に治療を必要とするけれど、比較的短期間に治療が中止される方もいます。
それとは逆に、最初は甲状腺刺激ホルモン(TSH)だけが少し高い値で、甲状腺ホルモンが正常範囲のために治療していなかった方の中で、一定期間(数か月)、無治療で様子を見ても甲状腺刺激ホルモン(TSH)が正常化しないために、結果として治療開始となる方もいました。
未熟児だから「一過性」とも決めつけられないのが難しいところです。未熟児で生まれたお子さんで、マススクリーニング陽性(TSH高値)となり精密検査対象となった場合は、たとえすぐに治療されなかった場合でも、注意深く1歳ころまでは定期的に血液検査をしながら、通院することが大切です。

:未熟児の取り扱いでややこしいことは、甲状腺自体の働きが悪い「原発性」甲状腺機能低下症が疑われる例以外に、視床下部―下垂体―甲状腺系の成熟が不十分なために起こると考えられる、一過性中枢性甲状腺機能低下症が未熟児にはとても多く見られることです。とくに出生体重1,500g未満、1,000g未満の場合、非常に多くなります。説明が難しくなりますので、今回は触れていません。別の機会にお話しすることにします。